令和の時代が始まりました。新元号の出典となった日本最古の歌集「万葉集」が注目され、いにしえの人たちの自然や風物に根ざした暮らしぶりに関心が高まっています。万葉集に魅せられ、こころ豊かな時代の訪れを期待する二人にお会いしました。(鈴江元治)
西宮:「梅花の宴」の手本 !? 元号の世界観を感じる庭園
初春の令月にして、気淑(きよ)く風和(やわら)ぎ―。令和の典拠となった万葉集の序文の後には730(天平2)年正月に、大伴旅人(おおとものたびと)が福岡県太宰府市にあったとされる自邸で開いた「梅花の宴」で詠まれた3首の歌が続く。
「実は、新元号につながる世界観が感じられる場所が西宮にあるんですよ」と話すのは、芦屋市に住む犬養万葉記念館に協力する会代表、山内英正さん(70)。当時の役人は中国大陸の書物を熱心に読んでいたと言い、多くの専門家も指摘の通り、序文は東晋の書家、王羲之(おうぎし)の「蘭亭序」の一節を手本にしたのでは、と語る。
同書が書かれたとされるのが西宮市の友好都市、中国・紹興市の蘭亭。西宮の北山緑化植物園には、紹興市にある歴史的建造物を再現した「小蘭亭」が1987(昭和62)年に建てられた。同書にも登場する「曲水の宴」が開ける水路も整い、いにしえの雰囲気を味わうには最適と勧める。
万葉学者で、文化功労者の故犬養孝さんが市内に暮らした縁で、阪急夙川近くの西田公園には万葉集ゆかりの植物72種類と歌碑がそろう万葉植物苑が造られている。山内さんは「往時の人々は東アジア全体で交流を深め、豊かな自然や心を大切にしていました。教養の必要性が見直され、美しい平和な時代になると良いですね」と期待している。
川西:自宅裏山に植物110種 花と緑に古代の心を探る
万葉集で詠まれた約110種類の花や草木を集めた私設の「猪名川万葉植物園」が川西市にある。
木田隆夫さん(73)が自宅の裏山(約1300平方メートル)を整備して2006(平成18)年に開いた。大学の講義で万葉集に興味を持ち、大手食品メーカーに就職してから、全国の万葉歌碑を訪ね歩いた。退職後、裏山を手入れするなら目的があったほうが楽しいと一念発起。万葉集に登場する約160の植物を目標に、種や苗、球根から植え、手に入りにくいものは各地の同好会や業者に連絡し、種類を増やしてきた。
訪れた日はヤマザクラやヤマブキが見事に咲き、これから夏にかけてはササユリ、ハス、ベニバナなどが花をつける。木田さんは「万葉集は自然や風土と結びついて味わい深い。ヒメユリに恋心を託すなど、古代人の気持ちを考えると興味は尽きません」と話す。
植物園は事前予約制。問い合わせはTEL:072-793-1821、木田さんへ。